- ボーカルに気持ちよくリバーブをつけたいのだがうまくいかない。
- お風呂のような響きになってしまう。
- リバーブが足りず歌が浮いている。と言われてしまう。
そんな疑問を持った方のために、今回の記事ではボーカルリバーブの適切なかけ方を解説しています。
この記事を書いている私は、レコーディング・ミキシングのプロとして15年以上勤めています。私のプロフィールは以下をごらんください。
NT Mixers Engineer (渡辺紀明)
- なぜリバーブがいるのか
- なぜ部屋のリバーブではいけないのか
- 曲の長さに合ったリバーブタイムの選び方
- 初期反射と後期残響
- リバーブタイプの選び方
- プリディレイの設定
- ダンピング・EQの設定
本記事の内容
歌には大なり小なりリバーブをかけることが一般的です。
リバーブがかかってないように聞こえる曲でもプロがミキシングした曲ではリバーブがかかっていることが多いです。
うまくリバーブをかけれるようになるとあなたのミックスは劇的に変わっていくでしょう。
・なぜリバーブがいるのか
リバーブとは残響のことです。残響とは音源自体が発音を停止した後も音が反射などして響いている現象です。
リバーブはほとんどどんな場所でも発生し、我々の耳はリバーブに慣れているのです。
なにも響かない部屋で生きている人はいません。自分の部屋、電車の中、駅までにあるトンネル、大なり小なりつねに響くところに我々はいます。
ただ一般的なボーカルレコーディングでは吸音された部屋で、録音マイクは歌い手の口から20cmくらいしか離れていません。マイクを耳だと思ってください。人と人がコミュニケーションをとるには近すぎる距離ですし、その距離で大きな声で歌われたら音が近すぎてうるさいでしょう。笑 この距離で集音するととても近くドライな音になるのです。
ですのでリバーブをつけてあげて距離感をシュミレートしてあげます。
またそもそもオペラなど響く部屋で歌う前提の曲など、歌い手が普段リバーブがついている状況でパフォーマンスするのに慣れている場合は同じようにリバーブをつけてあげないと歌いにくいでしょう。
・なぜ部屋のリバーブではいけないのか
リバーブがあるのが自然というならリバーブのある部屋でマイクを遠くして録音すればよい。そう思われる方もいると思います。
実際この指摘はあたっていましてオペラの録音なんかはリバーブをかけず収録したコンサートホールの響きだけで作品にする場合も多いです。
しかし響きというのはとても複雑で、集音している場所の響きが必ずしもその楽曲の響きとマッチするわけではありません。
ですのでポップスの歌は、響かないボーカルブースでドライで録音する。というのが定番の方法として進化してきたのです。
・初期反射と後期残響
リバーブを実際に曲に使って行く場合、リバーブにはまず大きく2種類あることを認識することが大事です。それが
- 初期反射 (Early Reflection)
- 後期残響 (Late Reverberation)
です。
後期残響は使っているリバーブハードウェアやプラグインによっては単にReverbという名称になっている場合が多いです。
初期反射とは簡単に言うと
たとえばあなたが普通の四角い部屋にいる場合、左右、前後、上下のそれぞれ6方向の壁から跳ね返って聞こえてくる最初の音ですね。ですので基本的には割と短い響きになります
あまり響きのない小さな部屋をシュミレートしたい場合、この初期反射だけを使って空間をつくることも可能です。曲によってはこれだけで成立しますし、リスナーにはあまりリバーブがかかっていると思われないでしょう。アーティストが歌はドライにしたい。と言っていたが本当になにもしないと歌が浮いてしまう。というときに使ったりもできますね。
リバーブによってはこの初期反射音だけ別設定ができるものもありますし、逆にAvidのD-Verbなんかは初期反射のパラメーターはありません。(図1)
実践的にはこの
次に後期残響ですが、後期残響は
だいたい200ms(0.2秒)くらいの残響があるともうアーリーリフレクションではなくリバーブと呼んでしまうことが多いです。
あなたが調整しているパラメーターが初期反射(アーリーリフレクション)なのか、リバーブなのか認知して設定しましょう。
・曲の長さに合ったリバーブタイムの選び方
Reverb Timeとは基本的には後期残響の長さをさします。これはプラグイン、ハードウェア問わずリバーブユニットの個体によって変わることがあります。
例えばスネアを一発鳴らします。Reverb Timeを2秒に設定した場合、そのスネアにリバーブがかかり、それがほぼ聞こえなくなるまで2秒かかる。
という意味ですね。
リバーブタイムは曲のテンポと曲に主に使われている音価(音の長さに)注意して設定しましょう。
BPM120だと1小節は2秒、BPM80で3秒。またBPM160で1.5秒です。
たとえば
- BPM120で歌に2分音符が多めの隙間が多い曲でしたら2秒のリバーブタイムが心地よいかもしれません。
- BPM120でも8分音符が多めの曲でしたら、2拍分の長さの1秒 もしくは1拍分の0.5秒の方が曲に合うかもしれません。
リバーブは長すぎると歌のフレーズがリバーブで伸びて次のフレーズにかぶってしまい濁らせてしまう場合があるので注意が必要です。
またリバーブの種類によってはリバーブタイムに変化を及ぼすパラメータが複数あったりするのでその場合はしっかり説明書をみてパラメーターを把握する必要があるでしょう。
リバーブタイムが絶対なものもあれば、曖昧なものもたくさんあるということです。表示された数字に惑わされないようにしましょう。

R-Verbには部屋のサイズをきめるSizeというパラメーターがありこれがリバーブタイムにも影響を及ぼす。
・曲にあったリバーブタイプを選ぶ
リバーブにはその響き方、音色の違いでホール、チャーチ、プレート、ルームなどのタイプがあります。
たくさんありすぎて迷ってしまう方も多いでしょう。一般的には歌にあったリバーブはプレートリバーブだと言われていますが、
このリバーブタイプが曲者でプラグインによってホールもプレートも大して音色が変わらないのもあれば劇的に変わるものもありますし、
プレートがホールような響き、ホールがチャーチのような響きのするリバーブもあり、プレートだから間違いない。と思って安易に選んでいると曲のイメージから外れる場合があります。
リバーブタイプでホールを選んでもパラメーターの設定によってはプレートっぽくなったりもしますし、
また実践的なテクニックとしてかけているリバーブの音色を聴きたい場合、リバーブタイムを思いっきり長く、(5秒くらいに)設定するとあなたがかけているリバーブの音色が顕著に現れてきますので、そこでリバーブタイプを選び、その後リバーブタイムを適正な長さにかえるとよいです。
プリディレイの設定
プリディレイは後期残響が発生するまでの時間です。
リバーブがすぐに発生してしまうと原音と混じりやすくなり、原音が濁りやすくなるといえます。
ぎゃくにプリディレイをかけすぎると原音が鳴ってからしばらくしてからリバーブが発生するため不自然になりがちです。
実践的なテクニックとして、初期反射の設定のないリバーブをかける場合など、プリディレイを30msなどに設定しておき、64分の1音符などで別にディレイをかけて初期反射をシュミレートする。などがあります。二つのエフェクトを別に使うことでコントロールがしやすくなります。
また初期反射項目があるリバーブではプリディレイで初期反射も後期残響も遅らせれるものと後期残響しか遅らせれないものなど多種多様なので注意が必要です。
ダンピング・EQ
ダンピングとは減衰という意味です。
リバーブが、高音が先に消えて低音が残って欲しい。とか、その逆、低音が先に消えて高音が残って欲しい。など響かせたいリバーブのイメージに沿って設定します。
実践的にはまずは初期設定問題ないことが多いです。
もしプリセットの初期設定でリバーブがかるくモワッとしてしまう場合、中域からローをはやく減衰させると良いでしょう。


リバーブにはeqが付いていますが、似たような効果を出せます。ただしeqはダンピングのようにリバーブの長さ自体は変えている訳ではないので認識だけはしておくとよいでしょう。
以上リバーブの説明でした。ここまで読んでいただきありがとうございます。
この記事がみなさんのお役に立てれば幸いです。
渡辺紀明 Twitter:@nwrecordings